『小説現代』(講談社)2021年4月号に掲載された、大木亜希子の最新小説『風俗嬢A』を全篇公開します。 30歳の女性が、ふたりの男性のあいだで揺れ動く性愛の物語です。 〈side‐S〉 透の舌は、いつも苦い。口のなかにねじ込まれるたび、不快感を抱く。 リズムの合わないキスを幾度か交わすと、彼は私のズボンを剝いだ。 「いや。ダメ。恥ずかしい」 否定的な言葉を使うほど、彼が興奮することを私は知っている。 いや、だめ、はずかしい。とくに、この三つは重宝している。 「立ったままだと、紗英の奥まで触れないじゃん」 透の抗議により、仕方なく食卓に浅く腰を掛ける。すると彼は床
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